Japanische Klassiker mit Furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme
その高い額の押黙って電灯に晒されている姿が、今も何となく彼には堪えがたくなる。彼はふと思いついたように座を立って、毎日の習慣である冷水摩擦の用意にとりかかる。タオルを堅く洗面器の上で絞ると、シイツの上に両足を投出している妻の方へ持って行き、足さきの方から皮膚をこすって行くのであったが、膝から脇腹の方へ進むに随って、妻の下半身の表情がおもむろに現れて来る。彼はそれを愛撫するというよりも、何か器具の光沢を磨いているような錯覚に陥りながら、やがて摩擦は上半身へ移って行く。すると、ここにはまるで少女のように細っそりした胸があり、背の方の筋肉は無表情の儘であるが、やがて首筋のあたりを撫でて行くと、妻は頤を反らして、快げに眼を細めている。こうして、摩擦は完了する。この肉体的接触の後の爽やかさが、どうやらお互の気分をかすかに落着かすのではあったが……。
青黒い水の上を滑って行く汽船が、悲しい情緒に咽びながら、港らしいところへ這入って行く。ぎっしりと詰った旅客たちの間に挿まれ、彼も岸の方へ進んで行くのだが、彼の旅行鞄には小さな袋に入れた糸瓜の種が這入っていて、その白い種の姿がはっきりと目にちらついてならない。