Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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なつのはな

夏の花・心願の国

原 民喜

Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme

Aozora Bunko

その手帳は、日記の役割をしていたが、気象に関する記録と夢の採集のほかは、故意に世相への感想を避けていた。だが夢ははっきりとある感想を述べているのでもあった。誰しもが避け難い破滅を予感し、ひそかに救済を祈っているのではあるまいか。その夢の最後に現れて来る歯科医は妻も知っている人物であった。少しでも患者が痛そうな表情をすると手を休め、その癖、少しずつ確実に手術を為し遂げてゆく巧みな医者であった。ふと、彼は妻にみた夢の内容を語りたい誘惑を覚えた。しかし、それを話せば、頭上に迫っている更に酷しいものの印象を強めるだけのことであった。

『そのとき天の方では、日の沈む側に雲が叢っていた。その一つは凱旋門に似ていて、次のはライオンに、三番目のは鋏に似ている。……雲の後から幅のひろい緑色の光が射して、空の央ばまで達している。暫くするとこの光は紫色の光が来て並ぶ。その隣には金色のが、それから薔薇色のが。が空はやがて柔かな紫丁香色になる。この魅するばかりの華麗な空を見て、はじめ大洋は顰め面をする。が、間もなく海面も、優しい、悦ばしい、情熱的な――とても人間の言葉では名指すことの出来ぬ色合になる』