Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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なつのはな

夏の花・心願の国

原 民喜

Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme

Aozora Bunko

家へ戻ると早速、彼はその臭いの佗しさを病妻に語った。妻は頬笑みながら「そんなに侘しいのなら、勤めなきゃいいでしょう」と労わるように云った。長い間、人なかに出たことのない彼にとっては、人間の臭いの生々しさが、まず神経を掻き乱すのであった。……ふと、昼間の光景が睡つけない闇の中に描かれた。階段を昇って、ザラザラの廊下を行くと、黄色く汚れた窓の中に少年たちのいきれが立こもっていた。そっと、教室の後の方の入口から這入って行ったのに、忽ち四十あまりの顔と眼鼻が一斉に振返って彼の方へ注がれた。その視線のなかには、火のように嶮しいものも混っていた。彼はかすかに青ざめてゆく自分を意識した。睡つけない闇のなかには、いつまでも何かはっきりしないものの像が揺れかえっていた。彼等はどうした貌なのだろう、なにを感じなにに為ろうとする姿なのだろう。

それはひどい雪の降っている朝のことだった。彼は電車の中で昂然とした姿勢の軍人の顔をつくづく眺めていた。人々は強いて昂然としているらしかったが、雪に鎖された窓の外の景色は、混濁した海を控えていて、ひそかに暗い愁を湛えているのだった。