Japanische Klassiker mit Furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme
あの弱々しい眼のなかから、パッと一つの明るいものが浮びあがったら……彼は電車の片隅でぼんやりと思い耽っていた。
今にも降りだしそうな冷え冷えしたものは、そのまま持ちつづいて、街も人も影のように薄暗かった。家を出てから続いている時間が今でも彼には不安な容態そのもののようにおもえた。映画会社の廊下を廻り演出課のルームに入っても、彼は影のように壁際に佇んでいた。
「奥さんの病気はどうかね」と友人が話しかけて来た。
「よくない」彼はぽつんと答えた。こんな会話をするようになったのかと、ふと彼には重苦しく愁わしいものがつけ加えられるようだった。
冷え冷えとしたものは絶えずみうちに顫えてくるようだったが、試写室に入ると、いつものように巨大な機械力の流れが眼の前にあった。フィルムの放つ銀色の影も速度も音響もその構成する意味も、彼にはただ、やがて破滅の世界にむかって突入している奔流のように無気味におもえた。だが、無数の無表情のなかに、ふと心惹かれる悲しげな顔が見えてくることもある。ふと、その時、試写室の扉が開いて廊下の方から誰か呼出しの声がした。瞬間、彼はハッと自分の名が呼ばれたのではないかと惑った。