Japanische Klassiker mit Furigana
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なつめせんせいのついおく
夏目先生の追憶
和辻 哲郎
Lesen Sie 夏目先生の追憶 (なつめせんせいのついおく) von 和辻 哲郎 (わつじてつろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 10.272 Zeichen · 21 Bildschirme
(もうすぐに先生の死後九日目が初まる。田舎の事とてあたりは地の底に沈んで行くように静かである。あ、はるかに法鼓の音が聞こえて来る。あの海べの大きな寺でも信心深い人々がこの夜を徹しようとしているのだ。)
先生の追懐に胸を充たされながらなお静かに考えをまとめる事のできないのは、ただ先生の死を悲しむためばかりでない。よけいな事ではあるがここにもう一つの理由を付け加える事を許していただきたい。私は心からの涙に浸された先生の死のあとにそれとは相反な惨ましい死を迎えるはずであった。しかし先生の死の光景は私を興奮させた。私は過激な言葉をもって反対者を責め家族の苦しみを冒して、とうとう今日の正午に瀕死の病人を包みくるんだ幾重かの嘘を切って落とす事に成功した。肉体の苦しみよりもむしろ虚偽と不誠実との刺激に苦しみもがいていた病人が、その瞬間に宿命を覚悟し、心の平静と清朗とを取り返すのを見た時、私の心はいかに異様な感情に慄えたろう。……私は感謝し喜び、そうして初めてまじり気のない感情でしみじみと病人を悲しみ傷んだ。生と死の厳粛さが今日から病室を支配し初めた。夜が明ければ私は何をおいても死んで行く者を慰めるために出かけなければならない。