Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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よるのくつ

夜の靴

横光 利一

Lesen Sie 夜の靴 (よるのくつ) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 107.056 Zeichen · 213 Bildschirme

Aozora Bunko

焚木を拾い拾い登ると一歩ごとに、平野は眼の下に稀に見る美しい全貌を顕して来る。私は煙草用のいたどりを採りに一人でよくここへは来たものだが、妻は初めて登るので、なるたけ柴より景色を見せてやりたい希望を持って来ているのに、この女人はどういうものかまた柴ばかり探している。そのうち私は少し腹が立って来た。

「たまに来たんじゃないか。もっと景色を見なさい景色を。」

「だって、もう見たんですもの。」

「これだけの景色は、そうざらに有るもんじゃないよ。絶景といってもいい。」

「絶景だ絶景だと仰言るもんだから、どんなにいいかしらと思っていたわ。こんなの、山と田ばかしじゃありませんか。」

しかし、景色というものはそういうものかもしれないと私は思った。どこが良いのかと考え出したが最後、どのような景色だってもう駄目なものである。

「お前は小さいときからこのへんの山の景色に見馴れているから、珍らしくないのだよ。他国人の僕がお前の国の景色に感心してやってるのに、心の分らない女だなア。柴より頭だ。」

「いいえ、あたしは柴柴。」

自分の一生は何んだかふとこれに似たことばかしのような気がして来たが、しかし、私はこれで良いのだと思った。