Japanische Klassiker mit Furigana
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よるのくつ
夜の靴
横光 利一
Lesen Sie 夜の靴 (よるのくつ) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 107.056 Zeichen · 213 Bildschirme
「あら、お久しぶりですのう。」と婦人は、にこにこして嬉しそうに兵士に云った。その笑顔のどこかに、むかしの恋人にちかい俤すらあった。
「敗残兵が帰って来たア。」
と、また兵士は同じことを繰り返して笑った。すると、今までにこにこしていた婦人は、急に笑顔を消し、俯向いたまま、
「どうしようもありませんでのう。」
と、悲しそうに云ったきり、もう顔を上げようとしなかった。兵士の方も的を射すぎた不手際な苦しさで、眼をぱちぱちさせて外っぽを向いたまま、これも何も云わなかった。
三度目の停留所まで来たとき、そこでもこの兵士の知合いが乗り込んで来たが、このとき兵士は、
「やア、お暑う。」と云って、軽く頭を下げたきりだった。
横にいた別の兵士はどこまでも黙黙として一語も発せず、笑いもしなかったが、彼の降りる停留所まで来たとき、ぎっしり詰った重い軍袋を足で蹴りつけ、プラットへ突き落した。日に耀いた鳥海山が美しく裾を海の方へ曳いている。稲の花の満ちている出羽の平野も、このような会話を聞いたことは、おそらく一度もなかったことだろう。
私は海際にあるその電車の終点の湯の浜で兵士と一緒に降りた。