Japanische Klassiker mit Furigana
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よるのくつ
夜の靴
横光 利一
Lesen Sie 夜の靴 (よるのくつ) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 107.056 Zeichen · 213 Bildschirme
」
「しかし、一寸待ってくれ。あの爺さんの云うことは、こっそりノートをとって置きたくなることもあるんだが、ノートをその場でとると、こっちの職業がすぐ分っちまうからね。そいつが困るんだよ。細かい数字のことになると、どうも僕は忘れてばかりだ。」
「でも、そんなに面白ければ、お会いになってもいいじゃありませんか。」
「しかし、夜はこの部屋へは電気が来ないし、眠るとなると、この蚤で眠れたもんじゃない。朝になると、昼まであの爺さんが動かぬし、やっと午後から昼寝の時間を見つけると、これは眠っているんだから、おれの時間じゃない。おれは、もう生死不明だ。生きているなと思うときは、朝起きて、茄子の漬物の色を見た瞬間だけだね。あのときは、はッとなるよ。」
「ほんとに蚤には、あたしも困ったわ。一日だけでいいから、どっか蚤のいない所で眠ってみたいわ。」
こんな会話を二人でひそひそ洩しているときでも、私たちには今一つ、別の不安が沁み込んで来ていた。それは四月に疎開してきた妻が、僅かよりない私たちの銀行の預金帳を、銀行焼失のためこちらで他の東京の銀行へ移管させたのが、四月以来いまだに東京から返送して来ないことだった。