Japanische Klassiker mit Furigana
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よるのくつ
夜の靴
横光 利一
Lesen Sie 夜の靴 (よるのくつ) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 107.056 Zeichen · 213 Bildschirme
不機嫌なときの参右衛門ほど露骨に不満を泛べる我ままな顔は少いであろう。しかし、これが一旦和らぐと、子供も匐いよりそうな温和な顔に変って来る。鬼瓦と仏顔が一つの相の中で揉みあっている彼の表情の底には、貞任や、山伏や、親王や、山賊やが雑然とあぐらをかいて鎮座した、西羽黒権現の何ものかを残している。ここは古戦場だが、彼の表情も、争われず霊魂入り交った古戦場だ。
九月――日
十米の眼前に雨が降りつつもこちらは照り輝いている空。山から幕のように張り辷って来る驟雨。稲の穂の波波うち伏した幾段階。――釣の一団が竿を揃え、山越えに行く足なみ。その尖がった竿の先がぶるぶる震えつつ日にあたっている。白く粉をふいた青竹の節節の間を、ゆれ過ぎてゆく釣竿の一団の中に、私の子供も一人混っている。この子はいま釣に夢中だが、ほとんど釣れたことがないに拘らず、餌の海老ばかり買っては盗られている。魚が盗るのか、人が盗るのか、答えはいたって不明瞭なので、ある夜、私はこれを煮て食べてみると、これは磯の魚よりはるかに美味だった。以来ときどき盗人になるのはこの私だ。野菜が少なかろうと、海で山越しの魚がなかろうと、もう恐るるに足りない。