Japanische Klassiker mit Furigana
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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
Lesen Sie 大菩薩峠 (だいぼさつとうげ) von 中里 介山 (なかざとかいざん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.374 Zeichen · 345 Bildschirme
「殿様、御気分でもお悪いのでございますか」
さし止められている殿様という言葉が、この時、思わず口を突いて出てしまったことは、その心が、昔の思い出に占められていたからです。秘書としてのお松ではなく、処女としてのお松でありました。
「いや、別に気分が悪いことはないが、少し考えさせられることがあってね」
「まあ、お考えあそばすことは、あなた様の始終のお仕事ではございませんか、いまさら考えごとをあそばすと、おっしゃるのがおかしいわ」
と、お松はつい語尾を砕けて言いきって、自分でなんとなく胸を躍らせる心持を加えたのが、自分でわかりません。
「いや、研究の考えごとと、人情の考えごととは、同じ考えごとでも性質が違うからな」
「考えごとにそんなに幾つもあるものでございますか、人情とは何でございます」
「人情というのは、人間の情合いのことなのだ。学問というのは、情合いをはなれた理性というものです。学問の考えは、深ければ深いほど落着くが、人情の考えというものは、深ければ深いほど乱れてくるものだ」
「では、殿様には、何かお心を乱すような人情の思い出が、お有りあそばしますか」
「有るとも、大有りだ」