Japanische Klassiker mit Furigana
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うしなわれたはんしん
失われた半身
豊島 与志雄
Lesen Sie 失われた半身 (うしなわれたはんしん) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 10.545 Zeichen · 21 Bildschirme
な笑顔を作るのである。その中にあって、おれは方便としても神妙な態度を装わなければならない。ずいぶん疲れるし、食慾が減る。
だから、学校に行く日は、今のところ木曜日だが、帰りに喫茶店へ寄ることにしていた。午食をぬいて、ケーキとコーヒーを取り、気分を引立てるため、コーヒーにウイスキーを注いだ。このウイスキーは、マダムに特別に頼んでおいたもので、おれの顔に対するサーヴィスなのである。
この喫茶店では、クラスの学生たちにしばしば逢った。戸川もその一人だ。然しおれは、マダムにおれが預けてることになってるウイスキーを、彼等に公開はしなかった。おれはそれほど甘っちょろい男ではないし、それほど彼等と親しくもなかった。
ところで、おれには妙な癖がある。旧知の人に逢っても初対面のような気がすることもあれば、初対面の人に逢っても旧知のような気がすることもある。両者の間の程度の差はさまざまだ。この相手とはこういう間柄だとはっきり分っていながら、気持ちの上ではへんな錯覚が起る。終戦後日本に帰還してきた時からの、未だに直らぬ癖らしい。それがひょっと出たのである。
戸川がはいって来て、照れたような笑顔でおれの前に坐った時、おれは、親しい友人だがずいぶん長く逢わなかったなあと、そんな気がしたのである。