Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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おんなごころしゅうい

女心拾遺

矢田 津世子

Lesen Sie 女心拾遺 (おんなごころしゅうい) von 矢田 津世子 (やだつせこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 17.514 Zeichen · 36 Bildschirme

Aozora Bunko

だから、ごくたまに、平服の父を母屋で見かけたりする時は、それを直ぐには父だと信じかねた。何かよその人を見るような感じで、それでいて、妙な懐しさから父が厠へ立つのにも一緒にくっついて行った。夜分は、母に抱かれてやすむのが習慣になっている伊予子は、よく母のしのび泣きに醒されて、自分もまた声をあげて泣くことがたびたびであった。

「さあ、いい児だから泣くのではありませんよ。母さんが悪かったこと」

箱枕に額を伏せて泣いていた母は袖口でこっそりと眼を拭くと、起きなおって伊予子を抱きあげるのだった。母の瞼は腫れぼったくなっていて、薄暗い行燈の光りに、ほつれた髪が額に寂しい翳をつくっていた。その顔から、少女の敏感さで、伊予子には母の泣くわけがうすら分る気がした。

「母さん」

呼びかけて、伊予子は無性に哀しく、母の胸に顔をおしつけてしくしくと泣き続けるのだった。ただ、訳もなく紋服姿の父を悪い人だと思った。そして、母の膝にゆすぶられながら泣きじやくっていた顔がおたばこぼんに結うた小さな頭をかくんと仰向けて、微かな寝息を立て初めるのだった。

或る日のこと、番頭相手に母がこんな風に云っているのを伊予子は聞いたことがあった。