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Japanische Klassiker mit Furigana

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しょうしょうしげもとのはは

少将滋幹の母

谷崎 潤一郎

Lesen Sie 少将滋幹の母 (しょうしょうしげもとのはは) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 83.234 Zeichen · 160 Bildschirme

Aozora Bunko

彼に取って「母」と云うものは、五つの時にちらりとみかけた涙を湛えた顔の記憶と、あのかぐわしい薫物の匂の感覚とに過ぎなかった。而もその記憶と感覚とは、四十年の間彼の頭の中で大切に育まれつゝ、次第に理想的なものに美化され、浄化されて、実物とは遥かに違ったものになって行ったのであった。

滋幹の父に関する思い出は、母のそれに比べると晩く、いつから記憶が始まっているか確かでない。が、多分その時期は彼が母に会えなくなった頃からであろう。それと云うのが、そうなる迄は父に接触する折がめったになく、それから後に父の存在が急にはっきりして来たからであった。彼のおぼえている父は、徹頭徹尾、恋しい人に捨てられた、世にも気の毒な老人と云う印象に盡きるのであるが、そう云えば一体、我が子の腕にある平中の歌に一掬の涙を惜しまなかった母は、父と云うものをどう思っていたのであろうか、滋幹はついぞ母からそれを聞かされたことはなかった。彼は几帳のかげで母の膝に抱かれた時、自分の方からも父のことを云い出したことはなかったが、母も、お父さまはどうしていらっしゃる、と云うようなことを、嘗て一度も問うたことはなかった。