Japanische Klassiker mit Furigana
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しょうしょうしげもとのはは
少将滋幹の母
谷崎 潤一郎
Lesen Sie 少将滋幹の母 (しょうしょうしげもとのはは) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 83.234 Zeichen · 160 Bildschirme
それと同じに、こう云う無人の境にあって静かに咲き満ちている此の夕桜には、何か魔物めいた妖麗さが附き纏っているように思えて、彼は我が眼を疑いながら、左右なく近寄ろうともせず、遠くから眺め渡していた。桜のある崖は、それが殆どひとかたまりの大きな岩の苔蒸したもので、川のおもてから一丈程抽んでいるのであるが、ひとすじの細い/\清水が、何処からか出て来て、その崖の下をめぐって、下の渓川へ流れ落ちてい、崖の中途から一と叢の山吹の花が、清水の方へしなだれかゝっているのである。でも、そう云えばさっきから餘程の時が過ぎているのに、滋幹の彳んでいる所から、向うのこま/″\とした景色がこんなに鮮かに見えるのは、―――花が雪あかりのような作用をして、あたりの物象を暗まぎれから浮き上らせているのであろうか、―――と、ちょっと滋幹はそんな気がしたが、それは花のあかりではなくて、花の上の空にかゝった月が、今しも光を増して来たのであった。土の上はしっとりと湿っていて、空気の肌ざわりはつめたいのだけれども、空は弥生のものらしくうっすらと曇って、朧々と霞んだ月が花の雲を透して照っているので、その夕桜のほの匂う谷あいの一郭が、幻じみた光線の中にあるのであった。