Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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びせいのしん

尾生の信

芥川 竜之介

Lesen Sie 尾生の信 (びせいのしん) von Akutagawa Ryūnosuke (芥川 竜之介) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 1.662 Zeichen · 4 Bildschirme

Aozora Bunko

橋の上にはしばらくの間、行人の跡を絶ったのであろう。沓の音も、蹄の音も、あるいはまた車の音も、そこからはもう聞えて来ない。風の音、蘆の音、水の音、――それからどこかでけたたましく、蒼鷺の啼く声がした。と思って立止ると、いつか潮がさし出したと見えて、黄泥を洗う水の色が、さっきよりは間近に光っている。が、女は未だに来ない。

尾生は険しく眉をひそめながら、橋の下のうす暗い洲を、いよいよ足早に歩き始めた。その内に川の水は、一寸ずつ、一尺ずつ、次第に洲の上へ上って来る。同時にまた川から立昇る藻のや水の※(「均のつくり」、第3水準1-14-75)も、冷たく肌にまつわり出した。見上げると、もう橋の上には鮮かな入日の光が消えて、ただ、石の橋欄ばかりが、ほのかに青んだ暮方の空を、黒々と正しく切り抜いている。が、女は未だに来ない。

尾生はとうとう立ちすくんだ。

川の水はもう沓を濡しながら、鋼鉄よりも冷やかな光を湛えて、漫々と橋の下に広がっている。すると、膝も、腹も、胸も、恐らくは頃刻を出ない内に、この酷薄な満潮の水に隠されてしまうのに相違あるまい。いや、そう云う内にも水嵩は益高くなって、今ではとうとう両脛さえも、川波の下に没してしまった。