Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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やまのてのこ

山の手の子

水上 滝太郎

Lesen Sie 山の手の子 (やまのてのこ) von 水上 滝太郎 (みなかみたきたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 15.551 Zeichen · 31 Bildschirme

Aozora Bunko

のだとお鶴は言った。

「私もいい芸者になるから坊ちゃんも早く偉い人になって遊びに来ておくれ」

お鶴は明日の日の幸福を確く信じて疑わない顔をして言った。平生よりも一層はしゃいで苦のない声でよく笑った。

「今度遊びに行っていいかい」

と私が言ったのを、

「子供の癖に芸者が買えるかい」

と囃し立てた子供連にまじってお鶴のはれた声も笑った。そしていつもよりも早く帰えると言い出して別れ際に、

「私を忘れちゃ厭だよ、きっと偉い人になって遊びに来ておくれ」

と幾たびか頬擦りをしたあげくに野衾のように私の頬を強く強く吸った。「あばよ」と言って、蓮葉にカラコロと歩いて行く姿が瞭然と私に残った。

悄然と黒門の内に帰った私は二度とお鶴に逢う時がなかった。忘れることの出来ないお鶴について私の追想はあまりにしばしば繰り返えされたので、もう幼かった当時の私の心持をそのままに記すことは出来ないであろう。私は長じた後の日に彩った記憶だと知りながら、お鶴に別れた夕暮の私を懐かしいものとして忘れない。

「お鶴は行ってしまうのだ」

と思うと眼が霞んで何にも見えなくなって、今までにお鶴がささやいた断れ断れの言葉や、まだ残っている頬擦りや接吻の温かさ柔かさもすべて涙の中に溶けて行って私に残るものは悲哀ばかりかと思われる。