Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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こうせつきょうほうずえ

巷説享保図絵・つづれ烏羽玉

林 不忘

Lesen Sie 巷説享保図絵・つづれ烏羽玉 (こうせつきょうほうずえ) von 林 不忘 (はやしふぼう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 365.120 Zeichen · 728 Bildschirme

Aozora Bunko

「いろいろとお心当たりもございましょうからねえ」

「お高、これから、金剛寺坂へ帰るのか」

「はい。何ぞおことづけでもございますか」

「恨みがあるなら金でこいと、めくら野郎にそういってくれ。これから、若松屋と磯屋はかたき同士、ひとつ小判で張り合って、どっちが立つかへたばるか、智恵くらべをしようと、な」

「はい。承知いたしました。若松屋様になりかわりまして、高からもそう申し上げようと思っておりましたところでございます」

七

お高が、小石川上水にそった金剛寺坂の若松屋惣七の屋敷へ帰って来たのは、夕方だった。ここらに多い屋敷々々の森が、藍をとかしたような暮色を流しはじめて、空いちめんに点を打ったように烏が群れていた。

お高は、じぶんの立場と心もちがはっきりして、いつになくすがすがした気もちだった。足早に坂を登って行った。この辺は、下町から来ると、まるで山奥へでも踏みこんだようなしずかさだった。お高は、何となくこころ楽しく、その静寂を、しみじみと呼吸した。

見慣れた若松屋の門が見えてくると、たまらないなつかしい気が、ぐんぐんと胸へこみ上げてきた。それは久しく遠国に旅をしていた人が、何年ぶりかにわが家へ帰って来て、出発のときと変わらない門口の模様を発見したときの、あの妙に白っぽい、不思議な昂奮に似ていた。