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Japanische Klassiker mit Furigana

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まぼろしのかなた

幻の彼方

豊島 与志雄

Lesen Sie 幻の彼方 (まぼろしのかなた) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 41.763 Zeichen · 84 Bildschirme

Aozora Bunko

もしそんなものが生れたら!……いやそんなことがあろう筈はなかった。

「兎に角医者に診て貰ったらどうだい。」と順造はぼんやりした顔付で云った。

「それよりも、」秋子は固執した、「これからはもう手荒なことはしないと約束して下さいますか。」

順造はその方を顧みた。いやに真剣なものが彼女の顔付に感ぜられた。まだ頭の隅に残ってる先刻の幻が恐ろしかっただけに、俄に強い愛憐の情が起ってきた。彼はいきなり彼女の背に手をかけて、その肩を抱きしめた。

「約束するよ。何でもお前の云う通り約束する。」と彼は云った。そして心の中では、お前が可愛いいんだ、ただお前が可愛いいんだ、と云っていた。

暫くして秋子はほっと溜息をついた。

「何だか頼り無い約束ね。」

「お前は恐くないのかい。」

二人の言葉は殆んどかち合うくらいに同時に出た。そして二人は、互に相手の意味を理解するのに一寸間がかかった。それから黙り込んでしまった。

空の星がいやにぎらぎら光ってくるように思われた。順造は眼を伏せて、庭の隅に澱んでいる濃い闇を、見るともなく見守っていた。暫くすると、秋子がうっとりと星を眺めてるのに気付いて、彼は或る一種の懸念に――聖なる恐れとでも云えるものに、突然囚えられた。