Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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げんかくき

幻覚記

豊島 与志雄

Lesen Sie 幻覚記 (げんかくき) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 4.700 Zeichen · 10 Bildschirme

Aozora Bunko

でも私は、母と一緒なので恐くなかった。提灯もつけず、ぼーとした星明りをたよりに、道を急いだ……。

そのことが、ただそれだけのことが、私の脳裡にはっきり刻みこまれていて、時々思い出されるのである。

然し、事実は違うようだ。肺病の秘薬のことなど、先年帰国の折、人に聞いたが分らなかった。また父は、私の七八歳の頃には健康で、肺病になったのはずっと後年である。第一、母と二人で薬買いに夜中に出かけることが、既におかしい。

それならば、私は右のことを、夢にみたのであろうか、くり返し夢にみたのであろうか。或は幾つもの夢が集まって、右のような幻覚が出来上ったのであろうか。

葦や篠笹の茂った堤防は、現実に存在する。私の生れた農村から半里余りのところに、平野の中に真直に長く続いている。昼間もあまり人通りがなく、何か兇事の噂でも起りそうなほど、淋しい場所である。

其処を、父のために母と二人で歩いていたということが、私の心を惹くのである。父も母も既に世に存しない時になって、父母のことを偲べば、心の底に澱んでくるものは結局、父のために、そして、母と一緒に、とそれだけに要約される。