Japanische Klassiker mit Furigana
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ひろば
広場
宮本 百合子
Lesen Sie 広場 (ひろば) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 15.809 Zeichen · 31 Bildschirme
「ただいま」
左手の窓に向って机についている素子は、あっちを向いたなり、それにこたえる声を出した。朝子はのろのろした動作でベレーをぬいで入口の帽子かけにかけ、外套をぬいで同じところへかけ、自分のベッドの傍へ行ってそこへ腰をおろした。部屋は割合ひろくて、さっぱりした薄青い壁の上やあっち向きの素子の両肩のあたりに、二重窓からの少し澱んだ明るみがおどっている。一つの高い本棚を仕切りにして、朝子の机は右の窓のところにあるのであった。
「どうした!」
「ふうむ」
「いたんだろ!」
「いたわ」
ペンの速さをまして最後の行を書き終る様子が、はなれている朝子のところから見えた。
「――どうしたのさ」
やがて椅子の上で、くるりとこっちを向いた素子の棗形の顔の上に、急に拡がってゆく驚駭の表情を見ると、朝子はとりも直さずそこに自分の動乱が映っているようで何とも云えない苦しい気がした。けれども自分の顔つきをかえる力は、今の朝子にないのであった。
「どうしたのさ」
どうというところに特別力をこめて云いながら、素子は何か警戒するように、離れている二人の間にある距離の助けで何かをそこからさぐり出そうとでもするように、凝っとその場を動かず、部屋の中を往ったり来たりしはじめた朝子を見守った。