Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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びしょう

微笑

豊島 与志雄

Lesen Sie 微笑 (びしょう) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 20.995 Zeichen · 43 Bildschirme

Aozora Bunko

電車が上野に着くと、私は立ち上るのが名残り惜しいような気がした。それから十五分許りの道を大抵歩いて帰った。家の人達はいつも寝てしまっているので、私は自分で表の戸締りをした。

そういうことが、いつのまにか私の生活の一つの様式となってしまっていた。私はそれを週に三回位は欠かさずくり返していた。然しそのことだけは、私の日々のうちでも少しも退屈でない部分だった。碁盤の上の勝負には絶えず変化があった。電車の中で逢う人の顔も絶えず異っていた。夜更けの帰途には今にも何か変ったことが起りそうな気がした。人生とは云わないが、私の心のうちに澱んでいる退屈な憂欝を、一変してしまうようなことが何か起りそうな気がしていた。

そしてまた実際私は、変なことに出逢ったのである。否、変なことをしたという方が適当かも知れない。

夜更けの帰りにS――の歩廊で、見知りの顔が一つ私には出来るようになった。いつのまにその顔を見知ってしまったのか、私はその初めを少しも覚えていない。そういう初めの無い知り合いというものは全く妙なものである。私と彼とは、名前も住所も身分も互に全く知らない他人であるのに、顔だけはよく知り合っていた。