Japanische Klassiker mit Furigana
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あやしのやかた
怪しの館 短編
国枝 史郎
Lesen Sie 怪しの館 短編 (あやしのやかた) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 81.915 Zeichen · 165 Bildschirme
彼は徳利搗きをやりながらも眼では本を読んでいた。
その朝も米を搗き終えるといつものように釜へ移しに縁を廻って厨へ行った。竈の前へ片膝を突いて飯の煮えるのを待ちながらも手からは書物を放さなかった。武経七書を読んでいるのである。
紙の破れた格子窓からすぐに往来が見えていたが、その往来に佇んで小鼓を打っている者がある。麟太郎は書物から目を上げて音のする方を眺めて見た。銀のような白髪を背後で束ね繻珍の帯を胸高に結んだたけた老女がこっちを見ながら静かに鼓を調べている。その物腰が上品で乞食の類とは見えなかった。麟太郎はしばらく耳を澄まして鼓の音色に聞き入った。いらいらしている人の心へ平和と慰安とを与えようとして遙かの青空からでも来たようなまことに穏かな音色であって、それを聞いている麟太郎の心は自然自然に柔らげられた。父の性格を受け継いで豪放濶達の彼ではあったが打ち続く貧困と饑餓のためにこの日頃心は平和を失い、読んでいる書物の文字の意味さえ呑み込めないまでになっていたが鼓の音色を耳にするや否や平和が立ち帰って来たのである。
「それにしても老女は何者であろう。そしていったい何んのためにいつまでも鼓を打っているのであろう」