Japanische Klassiker mit Furigana
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あやしのやかた
怪しの館 短編
国枝 史郎
Lesen Sie 怪しの館 短編 (あやしのやかた) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 81.915 Zeichen · 165 Bildschirme
すると老女は頷きながら穏かな声でこう云った。
「私は欲しゅうはござりませぬ。そこに仆れている饑えた人にそれを差し上げてくださいまし」
見ればなるほど往来の上に子を負った女が仆れている。子供の方は死んでいるらしい。麟太郎は女の側へ行って鉢の飯を膝の前へ置いてやった。それから老女を振り返って見たが、もうそこには老女はいなかった。遙か離れた往来の人混みの中から鼓の音が、餓鬼道の巷に彷徨っている血眼の人達の心の中へ平和と慰安と勇気とを注ぎ込もうとするかのように穏かに鳴るのが聞こえては来たが……。
麟太郎はふとした動機からその時まで懸命に学んでいた支那の学問を投げ捨てて当時流行の蘭学を取ったがこれが開運の基となって彼の世界は展開された。彼はこんな順に立身した。
蛮書翻訳係。軍艦練習所教授方頭取。それから咸臨丸の船長として米国へ航海した事もあった。作事奉行格並に軍艦奉行。もうこの頃は麟太郎は四十を幾年か越していた。そうして彼の名声は既に日本的になっていた。ある時は彼は塾を構えて有為の人材を養成した。坂本竜馬、陸奥宗光、いずれも彼の塾生であった。
しかし喬木風強し矣! 幕府の執政に疑がわれて「寄合い」