Japanische Klassiker mit Furigana
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おんをかえすはなし
恩を返す話
菊池 寛
Lesen Sie 恩を返す話 (おんをかえすはなし) von 菊池 寛 (きくちかん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 9.018 Zeichen · 19 Bildschirme
三十日は、昨日の大雨の名残りで、軍勢の足場を得かねた。
あくる寛永十五年の元朝は、敵味方とも麗かな初日を迎えた。内膳正は屠蘇を汲み乾すと、立ちながら、膳を踏み砕いて、必死の覚悟を示した。
この日は、夜明け方から吹き募った、烈風が砂塵を飛ばして、城攻めには屈強の日と見えた。正辰の刻限から、寄手は、息もっかず、ひしひしと攻め寄った。
神山甚兵衛も、出陣以来、待ちに待った日にあうことを喜んだ。彼は少年の折から、一度は実地に使ってみたいと望んでいた天正祐定の陣刀を振り被りながら、難所を選んで戦うた。
しかし寄手は、散々に打ち悩まされた。内膳正が流れ弾にあたって倒れたのを機会に、総敗軍の姿となって引き退く後を、城兵が城門を開いて、慕うて来た。
この時である。甚兵衛は他の若武者と共に細川勢の殿をして戦いながら退いた。その時に、敵方の一人がしつこく彼につきまとって来た。六十に近い、右の頬に瘤のある老人である。彼は鎧の胴ばかりを付けていた。目のうちは異様に輝いて、熱に浮されたように「さんた、まりや」と掛け声をしながら打ち込んでくる。息切れで苦しがりながら、懸命に打ち込んでくる。