Japanische Klassiker mit Furigana
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おんしゅうのかなたに
恩讐の彼方に
菊池 寛
Lesen Sie 恩讐の彼方に (おんしゅうのかなたに) von 菊池 寛 (きくちかん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 22.824 Zeichen · 46 Bildschirme
市九郎は、二人を殺してしまうと、急に人を殺した恐怖を感じて、一刻もいたたまらないように思った。彼は、二人の胴巻と衣類とを奪うと、あたふたとしてその場から一散に逃れた。彼は、今まで十人に余る人殺しをしたものの、それは半白の老人とか、商人とか、そうした階級の者ばかりで、若々しい夫婦づれを二人まで自分の手にかけたことはなかった。
彼は、深い良心の苛責にとらわれながら、帰ってきた。そして家に入ると、すぐさま、男女の衣装と金とを、汚らわしいもののように、お弓の方へ投げやった。女は、悠然としてまず金の方を調べてみた。金は思ったより少なく、二十両をわずかに越しているばかりであった。
お弓は殺された女の着物を手に取ると、「まあ、黄八丈の着物に紋縮緬の襦袢だね。だが、お前さん、この女の頭のものは、どうおしだい」と、彼女は詰問するように、市九郎を顧みた。
「頭のもの!」と、市九郎は半ば返事をした。
「そうだよ。頭のものだよ。黄八丈に紋縮緬の着付じゃ、頭のものだって、擬物の櫛や笄じゃあるまいじゃないか。わたしは、さっきあの女が菅笠を取った時に、ちらと睨んでおいたのさ。瑁の揃いに相違なかったよ」