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Japanische Klassiker mit Furigana

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あいよあい

愛よ、愛

岡本 かの子

Lesen Sie 愛よ、愛 (あいよあい) von 岡本 かの子 (おかもとかのこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 46.138 Zeichen · 99 Bildschirme

Aozora Bunko

私は、診察の順番を待つ間――一時間近く――うかうかとその場景に見入って居りました。先刻から、殊に私の眼をひいた一人の四十前後の男の患者がありました。日露戦争の出征軍歌を、くりかえしくりかえし歌っては、庭を巡回して居ました、その一回の起点が丁度私達の立って見て居る廊下の堅牢な硝子扉の前なのです。男は其処へ来る毎に直立して、硝子扉越の私達を見上げ莞爾としては挙手の礼をしました。私達もだまって素直に礼を返してやりました。男はそれに満足しまた身を返して広い桜庭を円形に歩み出すのでありました。軍歌は、幅の広いバスで、しかもところどころひどくかすれるのです、それは気のふれたひとの声の特長だとあとで聞きましたが、まことに悲痛に聞えました。男は日露戦争中負傷の際に気が狂って以来ずっと茲の病房の患者であるそうですが、病状は慢性な代りに挙措は極めて温和で安全であると聞きました。その可憐な男が、私達の前の一回の起点へ来る度に、一度は一度より増して桜の花片を多く身に着けて来るのでした。とりわけ男の頭へ沢山に散りかかって居る花片の間からところどころ延びた散髪に交って立つ太い銀色の白髪が午後の春陽に光って見えるのでありました。