Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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あるおとこのしゅき

或る男の手記

豊島 与志雄

Lesen Sie 或る男の手記 (あるおとこのしゅき) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 43.279 Zeichen · 86 Bildschirme

Aozora Bunko

私はその日初めて聞かされたのであるが、彼女はあの時既に札幌の家に居にくくて登別に来てたのだそうだし、私はまた、漂泊の旅にでもいるような気で旅をしてたのである。

私達は馬鹿馬鹿しくも、登別と井ノ頭とを比較して話し初めた。そのうちにいろんな物が運ばれた。女中は物を持って来たり用を聞いたりすると、すぐに室から出て行ったが、全体の調子や素振りで愛想よく待遇してくれた。一つ間を置いた向うの室で、男女の笑い声が聞えていた。私はいい気になって酒を飲んだ。光子も自ら進んで私の相手をした。それから何だかごたごたして、今私ははっきり記憶していないが、やがて食事を済まして林檎をかじりながら、私は縁側の戸を一枚そっと開けて、外を眺めてみたのである。庭の植込からその向うの木立へかけて、薄い靄が一面に流れていて、空高く星が光っており、西の空にどす赤い下弦の月が懸っていた。その不気味な月に暫く見入っているうち、俄にぞっと寒けを感じて、ふと振向いてみると、光子は半身を餉台にもたせかけ火鉢の上にのり出して、震えながら歯をくいしばっていた。私は雨戸をしめて戻ってきた。

「どうしたんです?」