Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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あるおとこのしゅき

或る男の手記

豊島 与志雄

Lesen Sie 或る男の手記 (あるおとこのしゅき) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 43.279 Zeichen · 86 Bildschirme

Aozora Bunko

この万一の場合を予想する気持は、これまでにも時々、ふっと日が影るような風に、何等はっきりした理由もなく起ってくることがあった。それは生活気分がたるんで心身がだらけてる結果だったろうが、その日のは変な重苦しい重圧となって、私の上にのしかかってきた。光子との会見があんな風に終って、愈々もう駄目だという絶望が濃くなるにつれて、私は一刻もじっとしてはいられなかった。多分河野さんの家へ行ってもう帰ってる筈の俊子と顔を合せることも、ひどく不安であったけれど、そんなことに構ってはいられなかった。

所が家へ帰ってみると、俊子は不在だった。女中に聞けば、俊子は午後中じっと家にいて、それから晩になると慌だしく支度をして、俥に乗って出かけたそうである。後で分ったことだが、彼女は河野さんの家へ行くのが何だか嫌で、ぐずぐずしているうちに夕方になって、いつも三時頃には社から帰る私が帰って来ないし、不安な思いが募ってきて、どうにでもなれという気で出かけたのだった。

「虫が知らしたんです。」と彼女は云った。「私はどうしても行きたくなかった。そしてぐずぐずしているうちに、あなたは先廻りをして、あの女と落合っていらしたんでしょう。