Japanische Klassiker mit Furigana
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せっぷんをぬすむおんなのはなし
接吻を盗む女の話
佐左木 俊郎
Lesen Sie 接吻を盗む女の話 (せっぷんをぬすむおんなのはなし) von 佐左木 俊郎 (ささきとしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 4.474 Zeichen · 10 Bildschirme
彼女は急いだ。最早今夜も、母親は恵子を膝の上に乗せて、白い頭を振り振り、身体を揺す振りながら、「お母ちゃん、帰るかと、見て来よかあ? 門に出て、お母ちゃん、見ていよかあ?」を唄っている頃だった。彼女は疲れた足を急がした。
明るい商店続きの町を出外れると、そこから二三町ほどの間は、分譲住宅地として取り残されている荒れ野原だった。三枝子はそこを斜めに横切るのだった。秋草の上には夜霧が最早しっとりおりていた。そして秋蟲がその中に鳴いていた。
荒れ野原はすぐに小住宅区域に続いていた。その住宅区域の表の方は、また、明るい商店の軒並み町になっていて、彼女は、その間の露路を這入らねばならなかった。
彼女は、ここまで来ると、いつもの癖で、母親が「お母ちゃん帰るかと、見て来よかあ?」という子守唄を歌ってはいないかと、耳を立てるようにした。――その子守唄は、彼女の家の、寂しさの象徴だった。職を漁りに出た夫もまだ帰って来ないとき、そして恵子が母親を待ち兼ねたとき、母親もまた餌を運んで来る子供達が待ちきれなくなって、恵子を慰めると同時に自分自身をも慰めずにはいられなくなって歌う唄なのだったから。