Japanische Klassiker mit Furigana
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ばんしゅうへいや
播州平野
宮本 百合子
Lesen Sie 播州平野 (ばんしゅうへいや) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 106.683 Zeichen · 214 Bildschirme
ひろ子の見ひらかれた瞳に、まだ動かない列車沿いの堤に生えている松が映った。雨の暁方の鈍い鉛色の外気の中で、松の葉が、漸く黒くほそく見わけられた。
雨の中を、ひろ子は小走りに地下道へ馳けこんだ。広島駅でいくらか元の形をとどめてのこっているのは、その地下道だけであった。一望の焦土というのは形容ではなかった。もうそこは、ひろ子が知っていた広島市でもなければ広島駅でもなかった。駅長事務室が、引込線の貨車の中に出来ていた。なまなましい傷の上に、生活が再建されようとしているのである。駅の見当さえつかなくなって、リュックを背負ったひろ子は地下道の右側の段に突立っている少年駅手にきいた。
「これから岩国へ行く汽車は何時に出るんでしょう」
「六時四十分!」
「六時四十分?」
ひろ子は間誤ついてききかえした。三本松で三時間も不時停車した列車は、ついたときに、七時すぎてしまっている。もう出てしまった列車を教えられるという意地わるさが想像されなかったので、ひろ子は、いぶかしそうに、
「六時四十分て――午前?」ときいた。
「六時って云えば、午前だぐらい、ばかでもわかるだろう!」
たった十四五のその少年駅手は左腕がなかった。