Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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だんがいのさっかく

断崖の錯覚

黒木 舜平

Lesen Sie 断崖の錯覚 (だんがいのさっかく) von 黒木 舜平 (くろきしゅんぺい) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 12.483 Zeichen · 26 Bildschirme

Aozora Bunko

雪は顔から手を離して、それを膝のうえにひろげた。ああ、そこには、私の名前でない男の名が、いや、ほんとうは私の名が、おおきく書かれていた。雪は、溜息ついて黙読をはじめた。私は、机のそばに坐って、ひっそりと机に頬杖つき、わが愛読者の愛すべき横顔を眺めた。ああ、おのれの作品が眼のまえで、むさぼるように読まれて居るのを眺めるこの刺すような歓喜!

雪は二三枚読むと、なんと思ったか、ぱっと原稿を膝から払いのけた。

「だめ。私読めないの。まだ酔っぱらっているのかしら。」

私はいたく失望した。たとえ、どのように酔っていたとて、一行読みだすと、たちまちに酔も醒めて、最後の一行まで、胸のはりさける思いでむさぼり読まれて然るべき傑作ではないか。ウイスキイ二三杯ぐらいの酔のために、膝からはらいのけるとは!

私は泣きたくなった。

「面白くないのか?」

「いいえ、かえって苦しいの。私あんなに美しくないわ。」

私は、ふたたび勇気を得た。そうだ、傑作にはそのような性格もあるのだ。よすぎて読めない。これは有り得る。そう安心すると、私は雪に対して、まえよりも強い、はばのひろい愛情を覚えたのだった。