Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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りょしゅう

旅愁

横光 利一

Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme

Aozora Bunko

その度びに、「ぐらん、くらん、」と響き合う鈴の木魂が余韻を空に氾濫させつつ、深まる夕闇の谷底をだんだん遠くへ渡っていく。

太陽はまったく落ちてしまった。羊の群れも峡間から消えて見えなくなったとき、矢代と千鶴子は初めて顔を見合せたが、どちらも何も云わなかった。下の空虚になった牧場には闇が羊に代って流れていた。はるか遠くの谷の方から、まだ夢のようにつづいている鈴の音を暫く聞いていてから、

「さア、だいぶ冷えて来ましたな。」

と矢代は云って立ち上った。二人は山小舎へ帰って行った。

夕食のときも二人は何ぜともなく黙っていた。食事を終ると矢代は窓いっぱいに散っている星を眺めながら身体を拭いた。疲れが一時に出て来て、ランプの下で煙草に火を点けるともう彼は動くことも出来なかった。隣室では早くも眠る準備の椅子を動かすらしい音がかたこととしていた。千鶴子も流石に疲れたと見え、椅子にもたれかかったまま峡間を見下していたが、それでも顔はつやつやとしていて少し窪んだ眼が一層大きく美しかった。

「あたし、今日ほど楽しい思いをしたことはありませんでしたわ。もうこんな楽しいことって、一生にないんだと思うと、何んだか恐ろしくなって来ましたわ。