Japanische Klassiker mit Furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme
「よしッ、そんなら今夜はどうしても負かしてやる。真剣勝負をやろう。」
と久慈は云って葡萄酒をぐっと飲み乾した。
「王さまも飛車も手放しか。」
と東野は急に盤面を引くり返したように、にこにこしながら今度は彼から久慈のコップに酒を注いだ。
こちらが力を入れるとすっと脱し、うっかり気をゆるめているときに不意に面丁へ撃ち込んで来る東野の癖に、久慈はもういらいらとして来た。洞のような奥まった部屋いっぱい煙草の匂の籠った中で、あちこちから左右両党の議論が盛んに起っていた。共産党の活動はトロツキストの方が優勢だとか、スターリン派との黙契がトロツキストとの間に出来て来たとか。北方の県とマルセーユ附近が最も罷業の火の手が熾んだとかと云う話の間で、いつも姿を見せるドイツの前の大蔵大臣だったと噂されている小さな人物だけが、いったいの話には何の興味も起らぬらしい様子で、食後のコーヒーを黙って一人飲んでいた。ロシアの王子だと云われる背のひょろ長い、眼の鈍った額の狭い青年も、絶えず人人の間を往ったり来たりしているだけでこれも誰とも話さなかった。東野の横では、ドイツの青年が柳田国男の日本伝説集という原語の本を読み耽っていたが、その他の者は皆それぞれ自国語で左翼の話をしていた。