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Japanische Klassiker mit Furigana

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りょしゅう

旅愁

横光 利一

Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme

Aozora Bunko

もし事実そうだったら、あちらを向きこちらを向くどこに信を置くべきか。――しかし、ただ束の間の幸福を逃さぬため、こうして全網を張りわたして待ち伏せている緊張にも、何んとなく投げ出した手のようなのびやかさを感じた。そのとき浴室のドアが開いた。

「すみませんが、そこのテーブルの上のハンドバッグね、それとって下さらない。忘れたの。」

ぱっとまばゆく一瞬の光りを背に、真紀子の顔が湯気を立てて覗いている。ゆるやかに綾を描いて喰み出る湯気の方へ彼は近よった。ハンドバッグを受けとる腕が浴室の腕のようにしなやかに延び、たちまちまたぴたりと戸を閉めた。貝殻の中で伸縮をつづけている柔軟繊細な貝類の世界を見る思いで、久慈はしばらく浴室の戸を眺めていたが、ふとノートル・ダムの石室の中を蠢めきのぼった真紀子の汗ばんだ体の触感も思い出され、今日一日のこの疲れも何か正当な受けつぐべきことを受け継いだ、柔らかな連鎖のその一鎖りだったと思った。

「そんならその貫いてゆくものの中で変らぬ唯一のものとは何んだろう。これこそ変らず滅びない念いというものは何んだったのだろう。」

人目のない浴室で延びやかに立っている真紀子は、恐らくいま鏡の前で化粧をしているときだろう。