Japanische Klassiker mit Furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme
入口の敷居の土の上に、一握りの盛り塩が円錐形の姿を崩さず、鮮やかな形で眼についたからだった。「おや、こんなものがあったのだ。」と彼は思った。いつも人に跨がれ、踏みつけられたりしていたその塩であった。それが闇の中から、不意に合掌した祈りの姿で迎えてくれていたのだ。物いわないその清楚な慰めには、初めて彼も長途の旅を終えた感動を覚えた。彼は襟を正して黙礼しつつ敷居を跨いだ。跨ぐズボンの股間から純白のいぶきが胸に噴き上り、粛然とした慎しみで、矢代は鼻孔が頭の頂きまで澄み透るように感じた。彼は思いがけないこの清めに体中のねばりが溶け流れた。彼は中へ這入ってから、杉の板壁に背をよせかけても、それからはもう、杉の柾目が神殿の木目に顕われた歳月の厳しさや、和らぎに見えるのだった。人は知らず、これはただならぬ国へ帰って来たものだと、彼は暫く親しい主婦に銚子も頼めなかった。
客は矢代の他に二人よりいなかった。二人の客はそれぞれ別の客だったが、一人は前からここでよく顔を合す常客で、他の一人は、腰かけたまま床下に俯向いていて、今にも吐きそうな苦しげな姿勢をしていた。鈍い電灯の下でその腰折れ客はときどき咽喉を鳴らした。