Japanische Klassiker mit Furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme
「洋行というのは、あれは明治時代に云ったことですよ。お父さん。」
父にそう云った子供の自分らの時代では、いつともなく洋行を渡行という言葉に変えて西洋に立ち対っていたのだが、立ち対う態度を洋式にしているうち、いつとは知れず心魂さえ洋式に変り、落ちつく土もない、漂う人の旅の愁いの増すばかりが若者の時代となって来たのである。
「わしはトンネルに初めて汽車を通すときは夜も眠れなかった。自分の作ったトンネルだからね。どういう間違いで崩れてしまわないとも限らないから、そっと夜起きて、草はらの中に隠れて、トンネルから出て来る汽車の顔を見てたものだ。無事に出て来てくれると、やれやれと思って家へ帰って、また眠ったよ。」
視界にただ一点幾何学を顕した半円のトンネルの口を見降ろしながら、矢代は、父の話した明治の初期の苦心がその弧形かと思った。今は父は庶民金庫に勤めているとはいえ、自分を育て西洋へまで渡らせてくれたのも、つまりは今見降ろしているその弧形のためだった。また自分のみならず、どれほど多くのものが父の作ったトンネルを潜り、便益を得て来たことだろうと思うと矢代も、実益を多く残して老いの皺の深まってゆく父の顔を、自分に較べて見るのだった。