Japanische Klassiker mit Furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme
矢代は母の実家の滝川家へときどき行ってみた。その地方ではただ二軒よりはないと云われ、建物の粋を凝らして作られた自慢の家だと聞かされていたのも、彼はこのごろになって漸くその美しさが分るようになった。使用された家中の材木のどの一つにも節がなく、八十年をへた年月の風雪にかかわらず、狂いや罅が一つも見られなかった。それらの良材のすべても目立たぬように渋を塗りこめ、生地の放つ尊厳さを薄め匿した心遣いの顕れも、都の風とは違っていた。その代りに、長押や柱のところどころに打ち込められた蔦の金具の紋章が、起居の間も先祖の心を失わしめぬ訓戒を伝えているのも、自分の家とは違った武士の血統だと矢代は思った。
いつかも母が矢代に滝川家の自分の父のことを、こんなに話したことがあった。
「あたしのお父さんはそれは厳しい方でしたよ。矢代の家へあたしがお嫁に来るとき、平民の矢代には娘をやれないと云って、赦してくれなかったんだけれど、だんだん調べてみたら、矢代の家は平民でも前の戦国時代にはお大名だったことが分って、初めて許してくれました。」
この母の呟きも幼少のころ聞かされたので、意味はよく彼には分らなかったが、長じるに随い、睦じかった中に母と父とのときどきの不和に似た、混じりのあったのも、このあたりの両家の家風の違いに原因していることが