Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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りょしゅう

旅愁

横光 利一

Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme

Aozora Bunko

むすび(産霊)の零のない数学の藪のように――。

昼近くなって千鶴子と槙三が、まだ幹の湿った杉の坂路を明るい声で登って来た。よく霽れた空の下に拡がった雪の谷を見降ろし、矢代は小屋の窓から手を上げて二人を呼んだ。下からも答える声がした。矢代の調べ物もまだ知らずに雪路を登って来る空腹な二人の兄弟の弟子が、一人はカソリックで、一人は科学者であるのがまた今の矢代には面白かった。

「汗をかいちゃったわ。今日は暖くって、いいお天気ですこと。」

小屋の前まで来たとき、千鶴子は宿から借りた足駄の雪を踏段の角で払い落して云った。

雪が日に解け始めたと見え屋根から崩れ落ちた。部屋に兄弟の客を上げると矢代は茶を淹れた。千鶴子はまだ外套も脱がず珍らしそうに、暫くは裏口の窓へ行ったり、炊事場へ廻ったりしつづけた。矢代は嫁に自分の栖家を初めて見せるような、初初しい気持ちに満たされて彼女の後姿を眺めるのだった。

「どうです、この小屋お気に入りましたか。」

「簡単でいいわ。あなた、無慾になったなんてお手紙で御自慢仰言ったけど、ここならあたしだって、無慾になれましてよ。」

裏口の窓から筧の落す水を眺めていた千鶴子は、ただ二人の間に通じるある意味を含めた微笑で振り向いた。