Japanische Klassiker mit Furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme
骨を鳴らせて飛び交う鳩の身体からうす冷たい風が立ち耳の根をひやりとさせた。
「まだいらっしやるの。」
千鶴子は渋渋矢代の横へ腰を降ろすと、
「あら、お坊さんだわ、今度は。」
と云ってにっこり笑った。見ると、カソリックの若い僧侶が椅子にかけて聖書を一心に読み初めた。
若い牧師が這入って来たのは右の繁みの間からであったから、多分サントーマの僧侶であろう。
しかし、左の方のベンチで、男女の愛の高潮した姿態を見、右の方のベンチで聖書の頁をくっている僧侶を見たりする図は、これもここでは物珍らしい風景とは云い難いが、矢代にとっては、これは社会の層の種類ではなく、自分の心中に棲む両極の図会となって自身の心の軽重をじりじり計るのである。
右を見、左を眺めているうちに、千鶴子も何事か胸を打たれるものがあるらしくふと顔を上げると矢代を見た。矢代も千鶴子を見たが、こんなときに視線の合うのは何の意味もなくともはッとなり、急いで避け合うと、そのために一層ない意味までが深まって来るのであった。
こうしているうちにも矢代は、いつの間にか千鶴子の考えていることを夢中になって追い馳けている自分を感じた。