Japanische Klassiker mit Furigana
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かにのかい
日本の怪談(二)
田中 貢太郎
Lesen Sie 日本の怪談(二) (かにのかい) von 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 80.664 Zeichen · 171 Bildschirme
朝陽を受けて水に映った己の影の上に、その時大きな物の影がふうわりとかかったが、それは人間の手のような、また見ようによっては蟹の鋏のようにも見える鬼魅の悪いものだった。お種ははっとした。
「お種さん、お種さん」
と、初めの声がまた呼んだ。お種は気が注いて揮りかえった。紫色の振袖を着た十五六の女のような少年が道の上に立っていた。お種は一眼見て何処かのお寺の稚児さんだろうと思った。
「お種さんは、私を忘れたの」
と、少年はにっと笑った。お種はどうしてもその少年に見覚えがなかった。お種はしかたなしに、
「どなたでございましたか」
と、云ったがひどく恥かしくて顔のほてるのを覚えた。
「今に判ります、それでは、また近いうちにお眼にかかります」
と、少年はまたにっと笑って体の向きをかえ、日浦坂の方へ歩いていった。お種はうっとりとなってその後姿を見送りながら、あんなに親しく口を利くからには知っている人にちがいないが、何処で逢った人だろうと考えてみたがどうしても思いだせなかった。ただ、ああして日浦坂の方へ往くところを見ると、積善寺の稚児さんであろう、積善寺なら彼処のお薬師様へは、時おり参詣したことがあるからと思った。