Japanische Klassiker mit Furigana
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かにのかい
日本の怪談(二)
田中 貢太郎
Lesen Sie 日本の怪談(二) (かにのかい) von 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 80.664 Zeichen · 171 Bildschirme
「いや獲れる、この潮時に獲れずにいつ獲れる、見ておれ」
「それでも、未だ早いじゃないか」
「早いことがあるもんか、去年は十日も早かったじゃないか」
人の気配がして入口へ旅僧が来て立った。明りにと焼いてある松の火がぼんやりと鼠色の法衣を照らした。
「や、お坊さんじゃ、鮭の前祝いに一杯やりよるところじゃが」と、漁師は女房の方を顧みて、「その蕎麦切でも進ぜたらどうじゃ」
女房は蕎麦切を椀に盛って出した。
「これは有難い」と、旅僧は押し戴くように受け、竹の簀子を敷いた縁端に腰をかけて、「蕎麦切の御馳走はありがたいが、鮭を獲る前祝いだと思うと、鮭に気の毒じゃ、どうだな、鮭を獲ることをやめては」
漁師は笑いだした。
「鮭を獲るのを気の毒じゃと云うてやめたら、こちとら夫婦が餓死せにゃならん」
「それもそうじゃが、物の生命をとるのは殺生じゃ、決して好い報いは来ない」
「好い報いが来ないと云うても、親譲りの漁師じゃ、他にしようもないことじゃ」
「それもそうじゃが、せめてこの二三日でも、やめたらどうじゃ」
「二三日位ならやめても好いが、二三日魚を獲らなかったところで、その後で獲りゃあ同じことじゃないか」