Japanische Klassiker mit Furigana
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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
Lesen Sie 日本婦道記 (にほんふどうき) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 11.547 Zeichen · 23 Bildschirme
世を忍んで、しかし心のひきしまった生活がはじめられた、昼は耕地ではたらき、夜は草鞋をつくり繩をなった、かまどの前にも跼み、野風呂を焚いた。そういう日々のなかで、たったいちどだけ人眼にかくれて泣いたことがあった、それは背戸にある柿の若木が、枝もたわわに赤い実をつけたのをみたときだった。――城下の家の柿はどうしたかしら。そう思うのといっしょに、あの悪い知らせのあった日縁側からうっとりと青柿を眺めていた自分の姿が思いかえされた。良人が生きていたら、そしてあの初生りの柿が一つでも熟れていたら、いまごろは青竹で籠をあんで、安之助の背に負わせて、あやうげな足どりであるくさまを良人と共に笑いながら見ていたであろう。みよの眼にはそのありさまがまざまざと見えた、それは未練な、恥ずかしいことだった。――こんな事で二度と泣いてはいけない。みよは泣きながら、繰返し自分にそう誓っていた。
翌年七月、けんもつ忠善は三河のくに吉田城へと封を移された。それでみよも吉田へゆく決心をした、六兵衛と家人たちは言葉をつくしてとめた。此処にいればこそ乏しくとも無事な日が暮せるのである、幼ない者をつれ、まだ若い婦人の身で、しるべもない他国へゆけばどんな難儀に遭うかもわからない、せめて和子が十歳になるまではこの土地で暮すようにと。