Japanische Klassiker mit Furigana
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きそおんたけのりょうめん
木曽御嶽の両面
吉江 喬松
Lesen Sie 木曽御嶽の両面 (きそおんたけのりょうめん) von 吉江 喬松 (よしえたかまつ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 15.819 Zeichen · 32 Bildschirme
谷を隔てて黒い岩質の山が微かな夕の光を反射させている。
「ああごしてえ、まあ先へ行っしゃろ、平湯はこの谷の底だで。」老夫は岩角へ腰を卸した。
私たちは草鞋の紐をしめ直して、殆んど垂直とも思われる礫だらけの谷の道を馳け下りた。一度足を動かし出したらば、止めようがない。腹をでくでくさせながら、息もつかずに走り下りた。
藪道をくぐり抜けて渓流の岸へ下りた。ただ一面の短い草の原、今まで来た道は何処へやら、さっぱり判然らなくなってしまった。が仕方がない、川を伝って下りて行った。何だか擂鉢の底でもめぐっているような思いがする。斯様な所を通って行って果して温泉なぞに出られるだろうか、と疑いたくなる。ちょっと立止って耳を澄すと、川の音と、うすくかかって来た霧の中をキュッ、キュッと鳴いて飛んでいる蝙蝠とがあるばかりだ。空を仰いでも、もう虹の色はいつしか消えてしまって、薄ぼんやりしているばかりだ。後から来る老爺を待とうかと言い出したが、まあ関わず行けというので進んで行った。
川が折れ曲ったかと思うと、山陰に家が黒く見え出して来た。燈火がちらちらする。湯の香もする。人の声もする。