Japanische Klassiker mit Furigana
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とうじょうき
東上記
寺田 寅彦
Lesen Sie 東上記 (とうじょうき) von 寺田 寅彦 (てらだとらひこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 8.356 Zeichen · 17 Bildschirme
掛川と云えば佐夜の中山はと見廻せど僅かに九歳の冬此処を過ぎしなればあたりの景色さらに見覚えなく、島田藤枝など云う名のみ耳に残れるくらいなれば覚束なし。金谷の隧道長くて灯を点したる、これは昔蛇の住みし穴かと云いししれ者の事など思い出す。静岡にて乗客多く入れ換りたれど美人らしきは遂に乗らず。東の方は村雨すと覚しく、灰色の雲の中に隠見する岬頭いくつ糢糊として墨絵に似たり。それに引きかえて西の空麗しく晴れて白砂青松に日の光鮮やかなる、これは水彩画にも譬うべし。雨と晴れとの中にありて雲と共に東へ/\と行くなれば、ふるかと思えば晴れ晴るゝかと思えばまた大粒の雨玻璃窓を斜に打つ変幻極まりなき面白さに思わず窓縁をたたいて妙と呼ぶ。車の音に消されて他人に聞えざりしこそ仕合せなりける。
大井川の水涸れ/\にして蛇籠に草離々たる、越すに越されざりし「朝貌日記」何とかの段は更なり、雲助とかの肩によって渡る御侍、磧に錫杖立てて歌よむ行脚など廻り燈籠のように眼前に浮ぶ心地せらる。街道の並木の松さすがに昔の名残を止むれども道脇の茶店いたずらにあれて鳥毛挟箱の行列見るに由なく、僅かに馬士歌の哀れを止むるのみなるも改まる御代に余命つなぎ得し白髪の媼が囲炉裏のそばに水洟すゝりながら孫玄孫への語り草なるべし。