Japanische Klassiker mit Furigana
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えのきものがたり
榎物語
山本 周五郎
Lesen Sie 榎物語 (えのきものがたり) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 33.519 Zeichen · 67 Bildschirme
その闇の中を、巨大な、えたいの知れないものが近づいて来る。それはあらゆる障害物を踏み潰し、押し流し、打ち毀しつつ、緩慢のようでありながら極めて迅速に、計り知れない力をもって襲いかかるようであった。
「いまのは土塀の崩れた音だわ」とさわはふるえながら呟いた、
「ああ厩が毀れた、いまのは馬のなき声だわ、なんだろう、どうなるのかしら」
木の裂ける音がし、また、木と木とが割れて、なにかの崩れる音がした。そして、それらの騒音の中から、人の叫び声が聞えた。
「さわ、どこだ、どこにいる」とその声はひきつるように叫んだ、
「さわ――どこだ」
「おとうさんだわ」とさわは茫然と呟いた。
「さわちゃん」と女の声で叫ぶのが聞えた、「どこにいるの、さわちゃん、かあさんはここよ、おとうさまもかあさんもここにいてよ、さわちゃん、――あたしたちここにいてよ」
さわの喉から劈くような声が出た。生れてこのかた初めて、父と母の声を聞くように思った。これまでは他人よりも縁のない人たち、親子の愛情などはかけらほどもなく、ただうとまれ、無視されるばかりだったと思っていたのに、いま聞く声は紛れもなく父の声であり母の声であった。