Japanische Klassiker mit Furigana
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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
Lesen Sie 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 112.073 Zeichen · 223 Bildschirme
甲斐は大鹿の頬を撫でた。与五兵衛は雪帽子をぬぎ、髪の灰色になった頭を垂れて、静かにそこを離れてゆき、六七間さきへいって佇んだ。
その大鹿は胸を射たれていた。肩にある一の矢の痕はかたまっていたが、胸の傷口から流れだす血が、そのからだを伝って、雪を染めていた。撫でるとまだ躰温が高く感じられるが、みひらいたままの眼や、なかばあいている口は、もう虚な死をあからさまに示していた。
「そうだ、対等ではなかった」と甲斐は口の中で云った。「追う者と追われるものに、対等の条件ということはない、今日の勝負はおまえが勝っていた、おまえはみごとにやった、あのばか者がいなければ、おまえはおれを仕止めたかもしれない、くびじろ、さぞ無念だったろう、勘弁しろ、くびじろ」
甲斐は眼を拭きながら、躯をずらせて、大鹿の上へうち伏した。そうして、強いけものの躰臭に顔を包まれたまま、やがて、甲斐は気を失った。
どのくらい失神していたかわからない。躯を揺り動かされた激痛と、自分を呼ぶ叫び声とで、われに返ってみると、すぐ眼の前に見覚えのある顔がのしかかっていた。誰だろう。
甲斐は眼をそばめた。