Japanische Klassiker mit Furigana
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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
Lesen Sie 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 112.073 Zeichen · 223 Bildschirme
川越の侍従(松平信綱)が亡くなってから、酒井侯は老中第一の権力者になられたということだ。事実、湯島で会ったときより、はるかに恰幅も大きくひとがらに威も付いた。老中第一人というにふさわしい容態であるのに、この甲斐に対してはこらえ性がなくなるらしい。
――酒井侯が盃を投げたとき、私が心のなかでなんと思ったか隼人にわかるか。久世侯、一ノ関、腰元などの見る前だ。私は、投げられた盃を拾いながら、心のなかで「これでよし」と思った。これでよし。笑い話しと書いたが、隼人には笑えないかもしれない。まだ知らせることがあるのだが、こんどはこれだけにしよう。
宇乃をたのむと書いて、甲斐は筆を置き、読み返してから、それを巻いて封じた。
「これを惣左に渡せ」と甲斐は向き直って、手紙をさしだした。
待っていた丹三郎は、すべり寄って、それを受取った。丹三郎はそのままさがろうとしたが、甲斐は待てと呼びとめ、静かな眼でじっと彼を見まもった。
「おまえは鬼役を願って出たそうだな」
丹三郎は「はい」と答えて頭を垂れた。
「なぜだ」と甲斐が訊いた。
丹三郎は答えなかった。甲斐はしばらく待ってから、青根であの密談を聞いたからか、と云った。