Japanische Klassiker mit Furigana
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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
Lesen Sie 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 112.073 Zeichen · 223 Bildschirme
「さがっておりましょうか」とおくみが訊いた。
「いや、もういい、寝ることにしよう」と甲斐が云った。
おくみは甲斐の立つのを待った。甲斐は手焙りの灰をみつめ、うんと頷いて、「寝よう」と云いながら、立ちあがった。
おくみのようすはいつもとまるで変っていた。それは広間で甲斐になにごとか囁かれてからのことだが、顔つきも挙措もおちつきを失い、言葉も常になく堅苦しくなった。眼は絶えず甲斐を避けているし、そうして、寝間へはいってからは、呼吸までが短く早くなり、着替えをてつだう手はふるえていた。
「どうかしたのか」と甲斐が訝しげに見た。
おくみは「こわい」と云って、がたがたとおののきながら、甲斐にしがみついた。
「ばかだな」と甲斐は微笑し、おくみの背を撫でてやりながら、「そこにある水を飲んでごらん、そうすればおちつくよ」と云った。
おくみはしがみついたまま「はい」と頷いた。それから、自分をためすように、おそるおそる手を放した。手を放しても立っていられるかどうかためしてみる、といったような動作であった。
「向うで着替えてまいります」とおくみは云った。
その声はかすれていたし、躯もまだがくがくするようにみえた。