Japanische Klassiker mit Furigana
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しにんのて
死人の手
田中 貢太郎
Lesen Sie 死人の手 (しにんのて) von 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 3.533 Zeichen · 8 Bildschirme
栗の毬彙がはじけて、樺色の実が路の上に落ちている処もありました。これが浅い山であったら、拾ってみる気にもなるでありましょうが、深い山の中で、それでさきを急ぐ旅でありますから、そんな物に眼をつける余裕はありません。どうかして、早く其の山を越して、むこうの村に着きたいと云う考えで、心が一ぱいになっておりました。
旅人は疲れた足を休めずに、登り続けました。何時の間にか足もとで鳴っていた渓川の水の音が聞えなくなって、渓は遙の下の方になってしまいました。
峠に近くなったところで、日が暮れて四辺が微暗くなりました。何と云う鳥であろう、けけけけと鋭い声で鳴きましたが、それが鳴きやむと其の後は寂然となりました。峠の上の方を見ますと、星が二つ三つ淋しそうに光っておりました。旅人は途方にくれましたが、後へ帰るにしても人家のある処へは、一里ばかりもありますので、暗い路を足探りに探って、上へ上へと登りました。
五六町ばかり登ったところで、路が平坦になりましたから、もう峠となったなと思っておりますと、火の光が見えて家らしい物が眼に入りました。旅人は悦しくて踊り出したいような気になって、其処へ寄って往きました。