Japanische Klassiker mit Furigana
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のこされたるえど
残されたる江戸
柴田 流星
Lesen Sie 残されたる江戸 (のこされたるえど) von 柴田 流星 (しばたりゅうせい) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 41.677 Zeichen · 80 Bildschirme
さるをその井戸、水道という便利なものが出来て、次第に取こぼたれ、今はその数も尠うなったので、初夏の午前に、五、七人の井戸やして太やかな縄に纏わり、井に降り立った男の中からの合図につれ、滑車を辷り来る縄を曳いて、井水をかえ出す様、漸くこれを見ること稀々にはなったが、かれらの懸け声とザァザッと覆さるる水の音を聞く砌は、ただ清々しく心楽しきものである。
「ほゥてよ※………ほゥ………」
繰りかえさるるその懸け声の度々に、ザァザッという水音、かくて替えつくされた井戸には、盃に三杯の清酒を撒いて塩ばなを振り、残れるを井戸やども盃に受けて呑む。
蓋された井戸の側に佇んで耳傾くれば、今し晒された井戸には新たに湧き出でた清水の底に落つる音折々に聞えて、心ゆくこと限りなく、江戸ッ児はそのすがすがしき滴りの音聞くを欣びて、井戸やが縄に吾から手伝うもの多く、さらし井の気勢いは朝の屋敷町に時ならぬ賑わいを見することがある。
さあれこの井戸がえというもの上下貴賤にけじめなく、華族様のお屋敷でも、素町人どもの裏長屋でも、同じ懸け声に同じ賑わい、井戸やが撒く清酒も塩ばなも、畢竟は水を浄めの同じしるしに過ぎずして、六根清浄、江戸ッ児はその清新をこれ愛する、清浄をこれ好む、実にかれらは詩をつくらざる気分詩人ではあるまいか。